産業医ログ

19社公表情報を比較

産業医を替えるとき、届出をやり直すのを忘れる——変更の実務を順番に並べる

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この記事の結論

産業医を替える実務は、①現契約の解約条件を書面で確認する②事由が発生した日から14日以内に後任を選ぶ③選任後、遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告する④健康情報の引き継ぎ方法を後任・退任医と合意する、の順で抜けが起きにくい。契約解除の条件を公式サイトに書いている紹介サービスは19社中1社だけである。

誰向けか: 産業医の交代を検討している、あるいは既に決めた事業場の総務・人事の担当者。

  1. 契約解除の条件は、紹介サービス19社中1社しか公式サイトに書いていない。解約の申し出方法と予告期間は、今の契約書を自分で読んで確認する
  2. 後任を選ぶ猶予の14日は、契約が終わる日ではなく『選任すべき事由が発生した日』から数える(労働安全衛生規則第13条第1項第1号)
  3. 選任が決まっても、所轄労働基準監督署長への報告は自動では終わらない(同条第2項)。健康情報の引き継ぎ方法は法律が形を決めていないので、後任・退任医との間で自分たちが合意しておく必要がある

産業医を替える、という話が出たとき、担当者の頭に浮かぶのはたいてい「次の候補を探す」ことだけである。今の産業医との契約をどう終わらせるか、労基署への届け出をやり直す必要があるか、それまで蓄積してきた従業員の健康情報をどう渡すか——このあたりは後回しにされやすい。実際に手を止めさせるのは、探す作業そのものではなく、順番を間違えたときに気づく手戻りのほうだ。

  1. 今の産業医との契約解除の条件を、書面で確認する
  2. 選任すべき事由が発生した日から14日以内に、後任を選ぶ
  3. 選任後、遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告する
  4. 健康情報の引き継ぎ方法を、後任と退任する産業医の間で合意する

四段階のうち、前半の2つは条文に期限まで書いてある。後半の2つは、書いていない。

契約を切る前に、解約の条件を書面で確認する

以前、当サイトが掲載している産業医紹介サービス19社の公式サイトを読み、契約期間や解約条件に触れている社を数えたことがある。今回、変更の実務を書くにあたって同じ19社のデータを読み直したが、数字は変わっていない。契約解除の条件に触れているのは、19社中1社である。その1社が書いていたのも「契約手数料等の初期費用・更新料なし」という一文で、解約の申し出方法や予告期間までは踏み込んでいない。

解約の条件は、公式サイトではなく契約書に書いてある

公式サイトに載っていないことは、決まっていないという意味ではない。個別の契約書に定めがあるのが普通で、集客用のサイトに転記されていないだけである。裏を返せば、替えると決めたその日に、今の契約書を引っ張り出して解約の条項を読むところから始めることになる。問い合わせて初めて分かるようでは遅い。

契約書に予告期間が書かれていれば、それが最初の締め切りになる。書かれていなければ、担当者から直接確認するほかない。契約解除の条件を公式サイトに書いている社の集計には、料金や対応エリアも含めた7項目の公表状況をまとめてある。

猶予の14日は、契約が終わる日からではない

労働安全衛生規則第13条第1項第1号は、こう定める。

「産業医を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること」

14日という数字の起点は「事由が発生した日」であって、今の契約が正式に終わる日ではない。産業医が自分から辞めるなら辞任の日、契約を解除するなら解除の効力が生じる日が起点になる。後任探しは、契約が完全に終わってから始めるものではなく、事由が発生した時点でもう時計が動き始めている。

契約書の予告期間が1ヶ月や2ヶ月であれば、その間に後任の候補を並行して探しておかないと、14日という猶予のほうが先に尽きる。解約の手続きと後任探しを順番に進めるのではなく、同時に走らせる理由はここにある。

選任が決まっても、報告は自動的には終わらない

後任が決まった時点で、まだ仕事は終わっていない。労働安全衛生規則第13条第2項はこう定める。

「事業者は、法第十三条第一項の規定により産業医を選任したときは、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して、次に掲げる事項を……所轄労働基準監督署長に報告しなければならない」

期限は「遅滞なく」で、日数の指定はない。ただし報告そのものを忘れる、あるいは前任者の情報を書かずに出してしまうという抜けは起こりうる。産業医が辞任・解任・退任したときの報告義務や、前任者の情報を選任報告に含めることで届出を1回に減らせる仕組みについては、産業医が辞めたときの届出の記事に条文ごとまとめてある。今回の記事で押さえておきたいのは、選任と報告は別の手続きだということ、そして報告の主体は事業者自身であって、紹介してくれた仲介会社が代わりに出してくれるとは限らないということである。

健康情報の引き継ぎは、法律が形を決めていない

ここまでの3つには、条文にはっきりした根拠がある。健康情報の引き継ぎには、それがない。

退任する産業医が持っている健康診断の結果、ストレスチェックの記録、面談のメモをどう後任に渡すか——渡す範囲、渡す形式、本人の同意の取り方まで、労働安全衛生法が条文で細かく定めているわけではない。ここから先を条文の言葉で断定するのは、実務の実態に合わない。

ここは法律ではなく、当事者間で決める実務

健康情報は労働者本人の同意なく目的外に使えないという原則はあるが、退任する産業医から後任へどう引き継ぐかという手順そのものは、紹介会社や事業場ごとに運用が分かれる。契約解除の話を切り出す段階で、①どの範囲の記録を引き継ぐか②本人の同意をどう取るか③引き継ぎの形式を書面にするか、の3点を退任する産業医と後任の双方に確認しておく。答えを事業者側だけで決め切らないことが、あとで揉めない一番の近道である。

抜けるのは、いつも後半の2つ

契約解除の条件を確認し、14日の猶予を数えるところまでは、期限がはっきりしている分、忘れにくい。選任報告と健康情報の引き継ぎは、期限があいまいなぶん、後回しにされる。

来年また産業医を替えることになったとき、今回の引き継ぎがどこまで整理されていたかを一番困る形で思い知るのは、今日の担当者ではなく、そのときの担当者である。産業医の選任手順には選任そのものの流れをまとめてあるので、初めて選ぶ場合はそちらを先に読んでおくとよい。

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